シロウトに相続税の申告書作成は可能なのか

相続税の申告書を、経理の知識・経験はもとよりエクセルのスキルもろくに持ち合わせていなかったシロウトが8か月をかけて作成し、所轄の税務署へ提出。その経験をとおして知ったことや感じたことを綴るブログ。

シロウトに相続税の申告書作成は可能なのか

【 申告書作成 】 ③ 第11・11の2表の付表1 を作成する前に:小規模宅地等の特例を利用可能か?

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この記事では、小規模宅地等の特例を使うことができるか、適用のための要件について書いています。

相続した財産のなかには、自宅の土地・家屋が含まれていることがあります。

特に都市部など、地価の高いところにある持ち家を相続した場合、それだけで多くの相続税が課せられることになることも少なくないようです。

しかし、相続税を払うために家を売る事態になり、住むところがなくなって生活基盤がおびやかされてしまうようなことになっては大変です!

小規模宅地等の特例は、相続した宅地等について、課税価格に一定の割合(80%もしくは50%)で減額してもらえる制度です。使えるものならぜひ使いたい!

しかし、この特例を使うためには一定の要件を満たしている必要があります。

どのような要件があるか、みていきましょう。

CONTENTS

 

小規模宅地等の特例、とは? 

この「小規模宅地等の特例」は、相続した土地の評価額を減額してもらうことができる制度です

(この特例で減額の対象になるのは土地だけ。家屋の評価額は、減額されません…)

減額の割合は、土地(宅地)の種類によって異なります。

持ち家の相続でしたら、宅地(特定居住用宅地等)の評価額について、80%の減額を受けることができます

たとえば、土地の評価額が 3,000万円 だったら。
小規模宅地等の特例が適用された場合、80%(2,400万円)の減額が可能。
3,000万 - 2,400万 = 600万 
…なんと、土地部分については課税価格が600万円に!
2,400万円の減額…凄い!

ただし、一定の要件を満たす必要があります。

適用が可能だということを示す、証拠(にあたる資料)の用意も必要です。

また、減額の対象になる面積にも上限があります(限度面積:居住用の宅地だったら、330平方メートル以下)。

小規模宅地等の特例、使うための要件は?

ここでは「小規模宅地等の特例」を適用するための要件についてみていきます。

小規模宅地等の特例については、国税庁の下記ページに示されています。
No.4124 相続した事業の用や居住の用の宅地等の価額の特例(小規模宅地等の特例)|国税庁  

亡くなった方が住んでいた持ち家で特例が使えるかどうか、「特定居住用宅地等」の項目で確認していきましょう。

亡くなる直前に被相続人が住んでいた宅地等であること

特定居住用宅地等は、被相続人の居住の用に供されていた宅地等のことです。
つまり、亡くなった方が、亡くなる直前まで、そこに住んでいたかどうかがポイント。

単に、その住所で住民登録をしている、というだけでなく、特例の対象となる宅地の上に在る建物(居宅)が、被相続人の「生活の拠点」となっていた、という「実態」があるかどうか。

これが、小規模宅地等の特例を使うために大切な要件になるのだそうです。

さきほどご紹介した、国税庁のサイト内のページ( No.4124 相続した事業の用や居住の用の宅地等の価額の特例(小規模宅地等の特例)|国税庁   )には、以下のように記されています。

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  相続開始の「直前」に「居住」していなかったら?

とはいえ、人が亡くなるのは自宅とは限りません。

病気などで入院したまま、残念ながら自宅に戻ることなく病院で亡くなってしまったり、老人ホームなどに入ってそこで亡くなったり、自宅以外の場所で亡くなるということも少なくないのではないでしょうか。

そのような場合は、「相続開始の直前」に「居住の用に供されていた」、つまり、亡くなる直前にそこに「住んでいた」と言えるのでしょうか。

国税庁へもそのような問い合わせがあったようで、文書での回答も出されています。

参考:
  別紙 老人ホームに入居中に自宅を相続した場合の小規模宅地等についての相続税の課税価格の計算の特例(租税特別措置法第69条の4)の適用について|国税庁  
  小規模宅地等の特例の対象となる「被相続人等の居住の用に供されていた宅地等」の判定|国税庁  

よくみられるであろう、2つのケースについてみていきます。

まず、病院で亡くなった場合。病院は、退院して自宅へ戻ることが前提。であれば、生活の拠点は「自宅」ということになるのだそうです。

次に、老人ホームの場合。以下に示す住居もしくは施設への入居/入所であれば、亡くなったときには(実態として)住んでいなくても「被相続人の居住の用に供されていた宅地」とみなすことができます。

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https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/sozoku/4124.htm より

 

被相続人の配偶者 → 「取得者ごとの要件」なし

小規模宅地等の特例には、相続をする側(相続人)についてもいくつか必要な要件があります。

しかし、被相続人の配偶者には、特に要件は定められていません。

被相続人の配偶者が、相続によって「被相続人の居住の用に供されていた宅地等」を取得し、小規模宅地等の特例を使いたいと希望するときには、無条件で適用が可能

もし亡くなったときに別居をしていたとしても、配偶者であれば、この特例の適用が認められるのだそうです。

被相続人と同居していた親族 → 相続税の申告期限まで居住・所有しつづけていること

被相続人と同居していた親族も、小規模宅地等の特例を受けることができます。

ただし、
相続開始の直前から相続税の申告期限まで引き続きその建物に居住しつづけること
その宅地等を相続開始時から相続税の申告期限まで保有していること
という2つの要件を、どちらも満たしていることが必要です。

つまり、配偶者以外の親族(相続人)が亡くなった方の持ち家を相続する場合、亡くなる前から同居していた親族であれば、小規模宅地等の特例を利用することができるということになります。

また、その場合、相続税の申告期限…つまり被相続人が死亡したことを知った日の翌日から10か月以内は、その宅地を保有し続ける必要があります。

  住民票を移せば「同居」になる?

結論からいうと、住民票の上では住所が同じでも「同居している」という実態がなければ、税務上「同居していた」とは認められない、とのこと。

住民票のうえでは「同居」の形をとっていても、「実際に同居をしていた」という実態が伴っていなければ、特例の要件を満たしたことにはなりません。

税務調査が入った場合、税務署の方は近所の人にも
・このあたりで会ったことはあるか
・引っ越しなどはあったか
などを調査し、同居の事実があったかをキッチリ確かめるのだとか。

逆に、住民票の上では別の住所になっているけれど、実際のところは「同居」していた場合、小規模宅地等の特例が認められることもあるようです。

あくまでも、実質面ではどうか、実態はどうだったか、ということ。この点は特に重要なようです。

  相続人が単身赴任のため、被相続人と「同居」していなかったら?

たとえば、実家を相続した場合。

もともとは親と同居していたけれど、会社から転勤の命がくだって、単身赴任の形をとることがあるかもしれません。

そのようなときに、親が亡くなった場合。小規模宅地等の特例は使えるのでしょうか。

この場合、その家が「生活の拠点として利用されている家屋」だと言えるかどうか、実態をもとに判断されるとのこと。

転勤や単身赴任についていえば、実際のところは、生活の拠点は赴任先の住居です。

しかし、「転勤という特殊事情が解消したときは、その相続人の配偶者等と起居をともにすることになると認められる家屋といえる」場合、適用が認められることもあるそうです。

つまり、被相続人が亡くなった時点では、単身赴任のために被相続人と「同居」ではなかった。しかし、「単身赴任せざるを得ない事情」がなくなったときには、明らかにまた生活の場を戻し、被相続人と同居する。
そのような場合には、小規模宅地等の特例が利用可能と判断されるようです。

参考:
  単身赴任中の相続人が取得した被相続人の居住用宅地等についての小規模宅地等の特例|国税庁  

被相続人と同居していなかった親族 → 6つの要件を満たすことが必要

被相続人が亡くなったときには別居していた親族であっても、小規模宅地等の特例が認められることがあります。

ただし、次の6つの要件を満たすことが必要です。
(ここでは、被相続人・相続人ともに日本人で日本国内に居住しているものとして要件をみていきます。)

① 被相続人に配偶者がいないこと
(結婚していたけれど、配偶者がすでに亡くなっていたり、離婚していたりする場合もこれに含まれます)

被相続人に同居の親族(法定相続人)がいないこと
(取得者とは別の法定相続人が被相続人と同居をしていた場合は、同居親族が相続放棄をしたとしても小規模宅地等の特例を使うことはできません)

相続税の申告期限(被相続人が亡くなってから10か月)まで所有すること
(小規模宅地等の特例を使ったからといって取得した家屋に居住しなければならない、というわけではないのだそうです。売却や賃貸に出すことも可能なのだとか。ただし、特例の適用を受けるためには、申告期限である10か月間は売却などせずに所有していることが必要です)

被相続人が亡くなる3年以内に、日本国内にある、以下が所有する家屋に居住したことがないこと
 ・取得者
 ・取得者の配偶者
 ・取得者の三親等内の親族
 ・取得者との特別の関係がある一定の法人

⑤ 相続開始時(被相続人が亡くなったときの時点)に、取得者が居住している家屋を過去に一度でも所有したことがないこと

いわゆる「家なき子特例」が認められれば、かなりの減額につながります。
・実家には、被相続人が生前ひとりで住んでいた
 (配偶者が先に亡くなって、一人住まいになった、というケースも含めて)
・取得者となる相続人は、賃貸住宅に居住している
・取得者となる相続人は、過去に一度もマイホームをもったことがない
という場合には、小規模宅地等の特例が可能か、専門家に確認してみることをおすすめします。

小規模宅地等の特例、申請に必要なものは?

小規模宅地等の特例の適用を受けるには、手続きが必要です。

適用を受けたい場合には、相続税の申告書等の様式一覧にある「第11・11の2表の付表1 小規模宅地等についての課税価格の計算明細書」などに必要事項を記入し、添付書類とともに、相続税の申告時に一緒に提出します。

なお、小規模宅地等の特例の適用を受ける場合の添付書類は、次のとおりです。

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申請にあたっては、遺言もしくは遺産分割協議書により、遺産分割が完了していることが必要です。

もし遺産分割がまとまらず、未分割のままの場合、小規模宅地等の特例を受けることができません。

また、適用を受けるには、申請が必要です。

適用要件を満たしていたとしても、自動的に小規模宅地等の特例が適用され、対象の宅地の評価額が減額になる…というわけではありません。

特に気をつけたいのが、相続した資産の総額が相続税の控除額を超えるけれど、小規模宅地等の特例を使って減額することができれば相続税の控除額以下になり「申告の必要がなくなる」という場合

相続税を収める必要はなくとも、相続税の申告期限内に申告書を作成し、所轄の税務署に提出する必要があります

特例による減額を受けなくても、もとから控除額以下の場合には、申告の必要はありません。

しかし、減額を受けなければ控除額を超えるような場合には、相続税の申告を行い、小規模宅地等の特例の適用を受ける手続きをすることが必要です。

申告書(第11・11の2表の付表1)の書き方については、こちらをご参照ください。
www.souzokuzei-jirikisinkoku.site